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「さっくん、さっくん……？！ねえ、起きて、
起きてよ、いかないで、さっくん………」
いくら叫んでも、話すこともなければ目を開けることもない。
大事なものは失ってから初めて気づくなんてよく言ったものだ。
誘拐されたことよりも、いま目の前で私の大好きな存在がいなくなってしまうかもしれない恐怖の方がはるかに大きかった。
いかないで。ずっと一緒にいて。いなくならないで。
周りに何人もいる警察官の人たちが慌ただしく動く中、救急車に乗せられていくさっくんを呆然と見ているしかできなかった。
次の日、学校が終わって私はさっくんのいる病院に来ていた。
「失礼します」
白いドアを開けて、中に入る。
(…………生きてる)
不謹慎だと思いつつも、そんなことをぼんやり考えながら布団の上に置かれた手に触れる。あったかい。
すると、部屋のドアが開いて、
「目黒先輩.......と」
「お久しぶりです。ごめんね、なんか勝手に」
「いえ！全然大丈夫です」
目黒先輩とあの時のマネージャーさんが姿を現した。白いふわふわのシュシュにポニーテール。
籠に入ったお花を持っていて、さっくんのお見舞いにきてくれたんだと理解する。
「まだ寝てる？」
「はい。とりあえず傷口は縫合して、しばらくは安静にってことらしいです」
「そっか。.......早く元気になるといいな」
「そうですね」
静かにさっくんを見つめる先輩に、伝えなくちゃいけないことを思い出した。
「先輩」
「？」
「私、自分の気持ち、決めました」
「.......そっか」
すると、隣にいたマネージャーさんが「蓮くん、先帰ってるね」と振り返ってドアを開けた。
「...待って」
「っ、」
「そうじゃないから。Aさんは、俺のこととか、そういうんじゃないから。
.......後で言いたいこと、ある」
彼女は目黒先輩の方を見ずに、静かに言った。
「...外で、待ってるから」
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作者名：灯莉 | 作成日時：2023年7月22日 2時
