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時計を見れば、もう部活が終わって帰ってくる時間も過ぎていた。
帰る途中でまた倒れたりしたのかもしれない。
よぎったそんな不安を裏付けるかのように、俺のスマホが鳴った。画面には「A」の文字。
安心したのもつかの間。
「もしもし、A？」
『.......佐久間さん、ですよね』
すぐに分かった。今日保健室で散々聞いた、落ち着いた低音。
『目黒です。いま学校の１番近くの横断歩道のとこにいるんですけど、』
そこで頭が我に返った。横断歩道、というワードを聞いてあの時の記憶が蘇る。
だけど、目黒くんが放った言葉は俺の想像とは全く違うものだった。
『Aさんが、誘拐されて』
..............え？
『保健室に忘れてってたっぽくて、保健室の先生が俺に渡してくれたんです。
だから今俺の手元にAさんのスマホがあって、今それで電話してるんですけど。
返そうと思って自転車でダッシュで追いかけたら、なんか変な人に車に乗らされてるの見て。
そんでいま自転車で追いかけてきて、』
「いま目黒くんはどこにいる？無事？」
「俺、いまAさんが連れてかれた建物の近くにいて」
「？！っダメだ、危ないから離れて」
「でも俺がいまから位置情報送ったら場所分かりますよね」
「それは……でも、何があるか分からない。高校生を巻き込むわけにはいかないよ」
「いま一番危ない目に遭ってるのはAさんです」
「！！」
はっきりとそう言われ、思わず口をつぐむ。
「…………わかった。メッセージ、開いて」
「はい」
「ただし、これだけは約束してほしい。すぐに俺含め警官が現場に行くから、合流したらすぐにその人たちの指示にしたがって。
位置情報を送ったらすぐに安全なところに隠れること」
「分かりました。送ります」
「送りました。じゃあ俺、こっから…うわっ！？」
「っ、目黒くん？！」
突如、目黒くんが電話の向こうで叫び声を上げて、知らない人の声も聞こえてくる。
「目黒、め……」
ツー、ツー、と無機質な音が流れる。
(……今はこんなこと考えてる場合じゃない)
「…もしもし、雪が丘駐在所佐久間大介です。誘拐事件です。
○○町△番地8-19、通報者の高校生1名……」
無線に話しかけながら自転車にまたがる。
「間に合ってくれ……！」
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作者名：灯莉 | 作成日時：2023年7月22日 2時
