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「A」
「……なに？」
「なんかあったの？」
まっすぐ目を見てなるべく優しく尋ねる。
「…………借り物競争、あった」
「そっか。それで？」
借り物競争、その一言でもう理由は大体分かっていた。
俺だって通っていた高校なわけで、体育祭で盛り上がる種目の内容なんてたかが知れている。
けど、何があったのか、Aの口からちゃんと聞きたい。俺が察してあげるんじゃ、ダメな気がした。
「先輩のお題、『最近気になってる子』だった」
「……そっ、か」
そこからAはゆっくりと、今日あったことを話し始めた。
Aの好きな目黒くんが、借り物競争で「最近気になってる子」というお題を引いたこと。
そこで目黒くんが連れてきたのは、3年生のサッカー部マネの女の子だったこと。
その子はAが前に目黒くんと一緒に帰っているところを見かけていた子だったこと。
同じ美術部の先輩で目黒くんと仲が良い向井先輩とやらが、目黒くんがその女の子を好きらしいと教えてくれたこと。
「そんなに好きなのかなとか、でも私とも一緒に帰ったりしてくれるじゃんとか、なんでって嫌なこといろいろ考えちゃって……っ」
「……つらかったね」
外の雨と呼応するように、Aの白い頬を涙が流れていく。
目の前で大事な子が泣いてる時にするべきことなんて、ひとつに決まってる。
「………我慢しなくていいんだよ、こういう時はさ」
横に座るAの体を胸に引き寄せて、そっと背中を撫でる。
「さ、っくん、」
「俺しか見てないから。嫌だって思っていいんだよ、そんなの。」
「誰だって自分の好きな相手に好きな人がいるって知ったときはつらいよ、当たり前じゃんか」
「……ごめんなさい」
「Aはなーんにも悪いことなんてしてないよ。大丈夫、大丈夫だから。ね？」
それからはただ、泣きつづけるAをゆっくり撫でていた。
(好きな人が別の奴に片想いしてる.......か)
俺も人のこと、言えないのかもしれないな。
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作者名：灯莉 | 作成日時：2023年7月22日 2時
