３週間【青】 (ページ16)

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渡「…あのさ」

渡辺くんに後ろから声を掛けられる。

「ん？」

渡「俺、ほぼ毎日入れる時は24時までバイトしてて。だからどうしても眠くなっちゃうんだけど、明日からはセンセーの授業に協力するね」

「え、ちょっと待って。24時までバイトしてるの？！」

翔「うん」

「それは…さすがに遅くないかな？…ちなみに何時から？」

翔「18時」

６時間…

朝から授業を受けて、帰ってすぐバイトする生活を毎日だなんて…

「嫌だったら言わなくて良いんだけど、その…バイトしなきゃいけない理由があるの？」

翔「んー…うち、母子家庭で。母親が仕事掛け持ちしてるんだけど、まぁ俺も働けば生活の足しになるかなって」

そんな…

なんて声を掛けたら良いか、一瞬言葉に詰まってしまう。

渡「母親が大学には行けってうるさくて。俺は卒業してすぐ働くからいいって言ってるんだけど」

「渡辺くんは…将来の夢とかないの？」

渡「えー…ないかな、別に」

「そっか…」

本当に無いのか、何かを諦めてしまっているのか…その表情から読み取るのは難しかったけれど、私も教育者の卵としてお母さんの意見には賛成だった。

「渡辺くんはまだ高校生なのに、偉いね。しっかりしてる」

渡「…」

「だけど、今はまだ少しお母さんに甘えても良いんじゃないかな。もちろんバイトをやめろとも、大学に
行きなとも私が言える立場ではないことは分かってるんだけど…」

渡「…まぁ、金が貯まるのだけは良いことだけどね」

「…うん。そう、だね。でも、これはただの意見として聞いて欲しいんだけど、私は渡辺くんに今は学業に専念して欲しいかな。渡辺くん、実は真面目だし。
自ら芽を摘んでしまってるような気がして」

渡「…」

「今すぐにとは言わない。…でも、バイトのことは少し考えてみて欲しい。
学生生活って一度きりだし、学業だけじゃなくて、友情に恋に、行事とかも思い切り楽しんで欲しいなって思うから」

渡「…まぁ、どれもそれなりには楽しんでるけどね。今も」

「そう？…それなら…これ以上は言わないけどさ」

後悔だけはして欲しくないって思う。

それに、大学に行けばまたやりたいことが見つかったりして、可能性も広がるんじゃないかなと思ったから…

渡「センセー熱血だね。笑」

渡辺くんが怒ったりせず、そう言って笑ってくれたことはなんだか救いだった。

それが例え、否定とも肯定ともとれない回答だったとしても。